システム開発においてITベンダーが負うべき義務(PM義務)の解釈が争点となる
2000年
スルガ銀行からIBMに対し、次期基幹系システムの提案を依頼する
2004年9月29日
新経営システムの開発を総額95億円で委託する基本合意書を締結する
2008年1月のサービスインに向けて開発プロジェクトがスタートする
2005年9月30日
これまでの検討内容を踏まえて、『新経営システム』合意書を締結する
2007年4月
【Corebank】を他のパッケージソフトに変更する提案がされた
開発プロジェクトが頓挫する
2008年2月29日
スルガ銀行よりIBMに対し、損害及び逸失利益(合計115億8千万円)の損害賠償を求めて訴える
IBMより反訴請求で(約125億5千万円)が提起される
2012年3月29日
東京地方裁判所は
IBMに対し、約74億1千4百万円並びにこれに対する遅延損害金の支払いを命じる
IBMのPM義務違反を指摘する
プロジェクトの企画・提案段階で、【Corebank】の機能検証が不足していた
これを見逃したとした
IBMが控訴する
2013年9月26日
東京高等裁判所は
第一審判決を変更し、IBMに対し41億7千万円及び遅延損害金の支払いを命じる
IBMのPM義務違反は
提案・企画段階ではなく、要件定義を経て両社が最終合意書を交わした段階とした
賠償額を約42億円に減額する
2005年の段階で、当初の開発範囲や開発期間では完成できないとIBMは認識していた
開発を継続するなら、開発費用、スコープ、期間のいずれかを抜本的に見直すか
開発そのものを断念するかを決定すべきだった
IBMがこの段階で
抜本的な変更、又は中止を説明・提言・リスクの告知をしていない
これがPM義務違反に当たるとした
ITベンダーには
ユーザーに対してPjtの抜本的な見直し、又は中止を提言する義務を負う
ユーザー企業に対して適切にリスクを説明するのは義務の一環とした
両者が控訴する
この時点での争点を最下段にまとめる
2015年7月8日
最高裁判所は
両者の上告を棄却する
結果、IBMに対し41億7千万円及び遅延損害金の支払いが確定する
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IBM側からの争点だったのは
(1)ITベンダーだけにPM義務を負わせるのは不当
ユーザー企業にも十分なリスク分析能力がある場合、といった前提で
スルガ銀行は優秀なIT部門を持ち、Pjt遂行に関わるリスクを分析する能力を備えていた
Pjtが危機的局面にあるという認識は両社で共有していた
(2)PM義務等を課される条件が曖昧である
最終合意書が締結された段階でPjtは危機的局面にはあったが
抜本的な見直しや中止の提言が必要な段階ではなかった
要件定義で明らかになった開発スコープの拡大は、IBMの費用負担で賄える範囲だった
スルガ側からの争点だったのは
(1)最終合意書の前に支払った費用も賠償額に認めるべき
PM義務違反などIBMの不法行為が、プロジェクト失敗の原因と認めている
Pjt失敗が原因でスルガ銀の全支払い額が損失になった以上
不法行為とスルガ銀の全損害には、賠償が認められるだけの因果関係がある
(2)パッケージ適用の問題
技術的に【Corebank】を邦銀に適用する事は可能した点
大規模なカスタマイズなどで技術的に可能であるとしたことは
費用対効果を含めて可能であるとは限らない
教訓
見直し・中止の手続き整備を行う
想定と実態に大きな乖離があることが明らかになった際
すみやかに抜本的な見直しや中止を視野に入れた協議に入ることを
ITベンダーとユーザー企業があらかじめ定めておく
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